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福岡地方裁判所 昭和59年(ワ)1695号 判決 1991年5月14日

原告

松下龍一

中村裕幸

三森正啓

清水泰

平井孝治

梅田順子

藤戸高光

戸田俊彦

中島こと

須藤眞一郎

中ノ上智之

続博治

前田トミ

川添房枝

高戸勇

浦上悦吉

田中清次郎

田中嘉彰

松本泰

藤木雄二

清水満

丸山武志

岸裕三

原告ら訴訟代理人弁護士

津留雅昭

被告

九州電力株式会社

右代表者代表取締役

渡邉哲也

右訴訟代理人弁護士

三ケ月章

田代有嗣

堤克彦

大江忠

松崎隆

主文

一1  原告藤戸高光、同田中嘉彰、同中ノ上智之、同続博治、同松本泰、同浦上悦吉、同藤木雄二及び同田中清次郎ら八名の訴えのうち、被告の昭和五九年六月二九日の定時株主総会における第一号議案(第六〇期利益処分案の承認について)及び第二号議案(退任監査役に対し慰労金贈呈について)を各承認する旨の決議の取消しを求める訴えを却下する。

2  右原告ら八名のその余の請求を棄却する。

二  右原告ら八名を除くその余の原告ら一四名の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告の昭和五九年六月二九日の定時株主総会における第一号議案(第六〇期利益処分案の承認について)及び第二号議案(退任監査役に対し慰労金贈呈について)を各承認する旨の決議を取り消す。

2  被告は、原告らそれぞれに対し、金一〇万円を支払え。

3  訴訟費用は被告の負担とする。

4  右2につき仮執行の宣言

二  被告の答弁

(本案前の答弁)

原告藤戸高光、同田中嘉彰、同中ノ上智之、同続博治、同松本泰、同浦上悦吉、同藤木雄二及び同田中清次郎ら八名の請求の趣旨1記載の決議の取消しを求める訴えを却下する。

(本案の答弁)

1 原告らの請求をいずれも棄却する。

2 訴訟費用は原告らの負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  (原告適格)

原告らは、いずれも被告の株主である。

2  (株主総会決議)

被告の昭和五九年六月二九日開催の第六〇回定時株主総会(本件総会)において、第一号議案(第六〇期利益処分案の承認について)及び第二号議案(退任監査役に対し慰労金贈呈について)をいずれも承認する旨の決議(本件決議)がされた。

3  (取消しの事由)

本件決議は、以下のとおり、その方法が法令に違反し、かつ、著しく不公正なものであるから取り消されるべきである。

(一) 不当な所持品検査と入場の制限

本件総会当日、原告らを含む「電源乱開発に反対する九電株主の会」(株主の会)の会員ら(ただし、原告田中清次郎を除く。)は、本件総会の会場となっている電気ホールのある電気ビル別館前に、午前八時から午前八時三〇分にかけて集合し、小集会を行っていた。本件総会の開会時刻は、午前一〇時であったが、原告らが、午前九時すぎころから会場のある電気ビル別館内に入り始めたところ、右ビルの各所に被告の男子従業員やガードマンが佇立しており、右ビル内に入ってきた原告らに対し、ゼッケンは着衣による言論表現であるにもかかわらず着用しているゼッケンを外すようにと、その服装にまで干渉した。

会場の出入口はさらに厳重に人垣が張り巡らされ、中には私服の警察官もいた。両脇を被告従業員やガードマンに囲まれたなかで、原告らが、被告受付係に対して本件総会の通知を提示したところ、氏名、住所、年齢、持株数を質問された。また、傍らの警察官と通じ、原告らが、少しでもおかしい素振りを見せると、更に執拗に追及し、原告らとともに会場に入場しようとした株主の会の会員らのうちの何名かは、株主である株主の会の会員の代理人として本件総会に出席しようとしていたにもかかわらず、非株主であるとの理由で、原告従業員やガードマンに羽交いじめにされて場外に放り出された。これに対して、原告ら以外の株主には、原告らに対するような厳しい資格確認はされなかった。

受付をすませて会場内に入ろうとした原告らに対して、被告は、手荷物を預けるよう強要し、これを拒んだ原告らに対してやにわに力ずくでバッグ等を取り上げて手荷物の中身を検査した。この検査により、手荷物の中にカメラを発見すると、カメラの持込みは禁止すると一方的に威圧し、これを取り上げた。入場した株主の一人は、持ち込んだカメラを会場内にいたガードマンに見つけられ、場外に排除された。バッグを開けるのに抗議した原告平井孝治(原告平井)は、四ないし五名のガードマンに羽交いじめにされて会場外に連れ出された。また、原告らの中には、本件総会において質問するための資料を用意し、これをバッグに入れておいた者もいたのに、被告は、これらをも有無をいわさず一様に取り上げようとした。

入場してからも、トイレの中まで被告従業員やガードマンを配して原告らの行動を監視し、原告清水満が会場外に一時出ようとしたところ、受付と会場内の従業員とが連絡を取り合い、本人と確認しなければ会場外へ出さないという状態であった。これに抗議する原告らに対して、被告従業員の一人は「全員偽者のくせに。」と言った。

以上のような被告の原告らへの一連の対応は、原告らを株主としてではなく、警備、排除の対象として処遇する理不尽極まるものであり、株主が株主総会に出席しようとすること自体に対するいわれなき介入圧力であり、もって、本件総会における原告らの発言の意思、意欲をも封圧しようとしたものであって、株主総会に出席して審議に参画するという株主たる基本的権利を否定する不当、違法ないし不公正なものである。また、そもそも株主総会に出席する株主の代理人となり得る者の資格を株主に制限する被告定款の規定は無効なものないしは著しく制限的な場合にのみ有効なものであり、株主たる株主の会の会員から委任を受けた非株主たる株主の会の会員も、適法な代理人として本件総会への出席を認められるべきであって、にもかかわらず、適法な代理人たる右株主の会の会員の入場を拒否した被告の対応は、違法なものである。

(二) 説明義務違反

本件総会に先立ち、原告らは、あらかじめ質問事項を記載した書面(事前質問状)を被告に提出して、本件総会において説明を求めるべく、予告していた。右質問事項は、別紙質問項目表一ないし四〇記載のとおり四〇項目に及ぶものであったが、各質問事項は質問内容の概括的表示がされていたにすぎず、事前質問状に、本件総会当日は質問事項の趣旨内容を出席者に周知するためマイクを準備してもらいたい旨を付記し、あらかじめ質問内容の趣旨説明をする旨通知予告するなどして、原告らは、本件総会の席上において、口頭で各質問事項の趣旨を補充したうえで、被告の具体的説明を求める予定であった。

しかしながら、議長は、原告らが具体的資料をもとに質問事項を補足し趣旨説明をしようとして「質問事項の説明をしたい。」と申し出たのに対し、「その必要はない。」としてこれを封じ、一気に「答弁」と称して、各担当取締役らを次々と立たせ、一方的に説明(一括答弁)を強行した。それらの答弁は、原告らの質問に誠意をもって応えるというものではなく、「当社はかく考える」式の一方的な主張であり、質問の趣旨を故意にはぐらかす形ばかりのものであった。この間、議長は、抗議する原告らに対して、「私の指示に従わなかった場合には退場を命ずる。」旨の発言をくりかえした。また、別紙質問項目表三六、三八及び三九記載の三項目の質問事項については、被告は、本件総会とは関係ないとして全く説明をしなかった。

一括答弁の後、原告三森(旧姓増田)正啓(原告三森)、同岸裕三(原告岸)、同藤木雄二(原告藤木)、同平井らが、口頭による追加質問(口頭質問)に立ったが、被告は、「説明は差し控える。」、「株主総会で取り上げる問題ではない。」、「既に説明しているのでそれで十分である。」などとして、満足にこれに答えなかった。また、原告平井は、更に質問を継続しようとしていたにもかかわらず、突然マイクの電源を切られてしまった。

以上の被告の対応は、株主に対する説明義務を定めた商法二三七条ノ三の規定に反し、違法なものである。

(三) 議事運営の不公正及び決議方法の瑕疵

(1) 質問権の制限

原告らは事前質問状を提出して十分な説明を期待していたが、被告はこれに答えなかったばかりか、右説明に先立つ口頭による趣旨説明も許さず、更に口頭による質問を続けようとしていた原告らに対し、質問者数を甚だしく制限したり、質問に対して恣意的に回答を拒否し、ついには、「質疑打切りの動議」に乗じてその質問を封圧した。第一号、第二号議案の決議に際しても、事前に質問に答えないまま、怒声の渦巻く中で、一方的に決議を強行した。

(2) 動議取扱いの不公正、不公平さ

原告らは、本件総会開会の冒頭において、「入場チェックに関する説明を求める動議」を提出しようとしていたが、被告は、これを無視した。

また、原告平井は、「監査特例法による会計監査人の総会出席を求める動議」、「質疑の続行を求める動議」、「第一号議案の修正を求める動議」及び「第二号議案の実質的審議を求める動議」の四本を提出しようとした。「監査特例法による会計監査人の総会出席を求める動議」は、貸借対照表に関して構築物等や株式発行費等の償却方法が変更されている点について会計監査人の説明を求める趣旨のものであって、株主総会の冒頭に提出するよりほかはなく、原告平井は右動議の提出を本件総会の冒頭より再三にわたって求めていたにもかかわらず、議長は、同原告の声を無視し、「あとにして下さい。」としてこれを取り上げなかった。結局、右動議は、事前質問状に対する一括答弁の後、時機を逸して受理されたが、動議提出者にその趣旨説明させないまま、議長が、「私はその必要がないと思いますが皆様はいかがですか。」と発言しながら議場に採否を諮り、賛否数の確認方法も取ることなく即座に「反対多数。」とこれを否決した。「質疑打切りの動議」可決直後の「質疑の続行を求める動議」、第一号議案上程後の「第一号議案の修正を求める動議」及び第二号議案上程後の「第二号議案の実質的審議を求める動議」については、原告平井が提出を求めたにもかかわらず、議長はこれらをいずれも無視した。それに対して、近藤株主の提出した「質疑打切りの動議」については、質問中の原告平井のマイクの電源を故意に切って、議長が示し合わせたように右株主を指名し、提案をさせ、即座に可決させたものである。

以上のように、被告の原告らの動議に対する取扱いは、不公正ないし不公平なものである。

(3) 決議方法の瑕疵

本件総会の会場は、質疑の打切りに抗議する原告らや被告側の株主の怒声が飛び交うという著しく喧噪した状態に陥り、議事進行は到底不可能になっていた。また、原告平井が議長席の下まで詰め寄り、声高に前記の「第一号議案の修正を求める動議」及び「第二号議案の実質的審議を求める動議」の提出を求めていたにもかかわらず、被告はこれを無視した。そして、被告は、第一号、第二号議案がいずれも原案どおり承認されたとして可決を宣言し、一方的に、議事を打ち切ってしまった。その際、どのようにして採決がされ、その結果がどのようなものであったか、原告らには明認することができなかった。「質疑打切りの動議」が提出されて閉会宣言までは、わずか五分あまりのことであった。

以上のように、被告は、到底議事進行の不可能な喧噪状態の中、審議らしい審議もせず、不明瞭な採決方法により第一号、第二号議案を採択したのであって、右決議はその方法において違法又は著しく不公正なものである。

(四) 本件総会終了後の事情

本件総会終了後、原告らは、被告に対し、被告の決議の強行に抗議するとともに、質問事項についての具体的説明を求めて、面会すべく被告本店に赴こうとしたが、被告は、原告らの用件を聞こうともせず、やにわに多数のガードマンを動員して原告らを取り囲んで社屋内に入ることを拒んだうえ、警察、機動隊をも動員して、原告らを排除した。

4  慰謝料請求

前記3記載の経過のとおり、被告は、原告らの質問権を始めとする株主としての権利を不当に無視したばかりか、手荷物検査を強要し、被告従業員やガードマンが強引に会場から引きずり出し押し出すなどした。そのため、原告らは、著しい精神的、肉体的苦痛を被った。右、精神的、肉体的苦痛に対する慰謝料は、原告一人につき、金一〇万円が相当である。

5  よって、原告らは、被告に対し、本件決議の取消し及び不法行為に基づく損害賠償請求として原告らそれぞれに対する金一〇万円の支払を求める。

二  被告の本案前の主張

1  次の原告らは、それぞれ左記年月日欄記載の年月日に被告の株主名簿上の株主から離脱した。

原告名  年月日

藤戸高光 昭和六〇年九月九日

田中嘉彰 昭和六一年三月一三日

2  次の原告らは、本件訴え提起当時は単位株主であったものの、その後、それぞれ左記年月日欄記載の年月日に単位未満株主となった。

原告名  年月日

中ノ上智之 昭和六三年八月三〇日

続博治 昭和六三年九月二六日

松本泰 昭和六三年一一月二九日

浦上悦吉 平成元年三月二四日

藤木雄二 平成元年三月二八日

田中清次郎 平成元年三月三一日

3  株主総会決議の取消しを求める訴えについては、原告となるべき者は、株主資格を、訴訟提起時から口頭弁論終結時まで有していなければならず、本訴係属中に株主名簿上の株主でなくなった原告の訴えは、却下されるべきである。また、商法改正附則一八条一項は、単位未満株主が同項一号ないし六号に掲げる権利以外の権利を行使することができない旨を定めているところ、右の一号ないし六号中には、商法二四七条一項の株主総会決議取消訴訟提起権が掲記されておらず、したがって、訴訟提起時には単位株主であったが、その後単位未満株主となった原告の訴えも却下されるべきである。

よって、原告藤戸高光、同田中嘉彰、同中ノ上智之、同続博治、同松本泰、同浦上悦吉、同藤木雄二、同田中清次郎の八名は、いずれも本件決議の取消しの請求については、原告適格を有しないので、同原告らによる本件決議の取消しを求める訴えは、却下されるべきである。

三  被告の本案前の主張に対する原告らの答弁

1  被告の本案前の主張1、2の事実は、いずれも認める。

2  しかしながら、本件訴訟において原告らが取消しを求めている決議は、第一号議案(第六〇期利益処分案の承認について)と第二号議案(退任監査役に対し慰労金贈呈について)であって、これらの決議が取り消されれば株主の利益配分などにおいて、本件総会当時に株主であった者に対して影響を与えることになるから、仮に、訴訟提起後に株主から離脱したとしても、本件訴訟を係属する利益は喪失しない。単位未満株主となった者についても、単位未満株主となった以後の株主総会への出席権を喪失したのみであり、本件総会当時に株主であった地位に基づく本件訴訟の提起とその係属には影響がない。

四  請求原因に対する認否及び被告の主張

1  請求原因1の事実のうち、原告藤戸高光、同田中嘉彰、同中ノ上智之、同続博治、同松本泰、同浦上悦吉、同藤木雄二、同田中清次郎の八名を除いたその余の原告ら一四名については、いずれも被告の株主(単位株主)であることを認める。

前記二3記載のとおり、本件口頭弁論終結時において、原告藤戸高光、同田中嘉彰の二名は、被告の株主名簿上の株主ではなく、原告中ノ上智之、同続博治、同松本泰、同浦上悦吉、同藤木雄二、同田中清次郎の六名は、単位未満株主である。

2  請求原因2の事実は、認める。

3(一)  請求原因3(一)の事実のうち、本件総会当日、株主の会の会員らが、電気ビル別館前に午前八時から午前八時三〇分にかけて集まっていたこと、午前九時前に右ビル前で小集会が行われたこと、午前九時ころ原告ら(ただし、原告中島こと須藤眞一郎、同田中清次郎は除く。)も電気ビル別館内に入ったこと、本件総会が午前一〇時開会であったこと、その会場が電気ビル別館内の電気ホールであったこと、被告が被告従業員を案内係として電気ビル別館内やその周辺に配置したこと、ゼッケンを着用していた者に対し、被告従業員がこれを外すよう要求したこと、被告が会場に入場しようとした者の入場資格の確認をしたこと、その結果株主でないと判明した者の入場を拒否したこと、原告ら二二名のうち、原告中島こと須藤眞一郎、同田中清次郎の二名を除く二〇名については、その株主名表示のある議決権行使書用紙を持参した者が、会場に入場したことは認め、その余は否認する。

(二)  被告の主張

(1) 案内係の配置

被告は、本件総会の前年である昭和五八年までは、被告本店の所在する電気ビル本館の地下二階大会議室において株主総会を開催していたが、出席株主数が年々増加する傾向にあったため、本件総会から総会開催場所を変更して、右電気ビル本館に隣接する電気ビル別館内の電気ホールにおいてこれを開催することとした。そのため、被告は、被告従業員を案内係として、電気ビル別館、電気ビル本館の周辺に配置した。また、電気ビル別館は、いわゆる雑居ビルであり、第三者の設置した店舗や事務所は本件総会当日も平常どおり業務を行っており、電気ビル別館の正面玄関から会場受付に至る通路は、右店舗や事務所の関係者らも通行する部分であることから、被告は、右通路にも案内係約二〇名を配置した。さらに、被告は、会場での不測の事態に備えるため、本件総会に先立って警察に警備要請をするとともに、本件総会当日は会場内に五人分の警察官席を用意した。

(2) 原告らによる集会

本件総会当日の午前八時三〇分ころから午前九時ころにかけて、電気ビル別館の正面玄関前に株主の会の会員とおぼしき四〇ないし五〇名の者(原告らグループ)が集まり、「電源乱開発反対」などと大書きした横断幕を張り、あるいは、「反原発」、「核のない社会を」などと書かれたゼッケンを着用して、小集会を開催した。この集会には、原告らのうち大半の者が参加していた。

(3) ゼッケンの取外し要求

前記小集会が行われていたころと相前後して、会場受付前には株主が参集し始め、午前八時三〇分ころには一〇〇名ほどに達した。被告は、午前九時前に受付を開始し、株主を順次会場内に導入し始めたが、このころ、小集会を終えた原告らグループのうち三〇ないし四〇名がひとかたまりになって受付前に参集し、会場内に入ろうとした。

しかし、原告らグループ中には、右小集会において着用していたゼッケンをそのまま着用していた者らが含まれていたため、被告は、ゼッケン着用者に対し、ゼッケンを外して入場するよう要求し、これを外させた。

(4) 受付における資格確認

本件総会に出席できるのは議決権を有する株主に制限され、また、被告定款により、株主の代理人となり得る者の資格も株主に制限されているところ、被告は、会場の受付において、来場者が議決権を有する株主であるか否か確認する手続を行った。すなわち、議決権を有する株主全員に対し総会招集通知と当該株主の住所・氏名などを明記した議決権行使書用紙各一通を事前に発送し、総会に出席する際、各自に送付された議決権行使書用紙を会場受付に提出するよう求め、受付に議決権行使書用紙を提示した来場者は、特別の事情がない限り、入場させることとした。しかし、来場者が株主か否かについて疑義が生じたときには、その者に氏名・住所・持株数を尋ねるなどの方法によって、株主であるか否かを確認し、来場者が株主でないことが判明した場合には、その入場を拒否することとしていた。

本件総会の前日である昭和五九年六月二八日、原告平井が、株主の会を代表して附属明細書の閲覧・謄写をしに被告を訪れ、その際、被告は、同原告に対して、株主総会には株主しか出席できないので、非株主が出席するようなことがないようにと注意を与えた。これに対し、原告平井は、株主名簿上の名義いかんにかかわらず株主の会の会員であれば誰でも入場資格があるとして、本件総会に非株主が入場することもあり得る旨を答えた。

本件総会当日の午前九時ころ、前記(3)記載のとおり、原告らグループのうち三〇ないし四〇名がひとかたまりになって受付前に参集したので、被告は、順次、これらの者に対しても、他の来場者に対するのと同様、議決権行使書用紙の提出を求めた。

しかし、原告らグループの中に、明らかに非株主であるにもかかわらず、他人名義の議決権行使書用紙を提示してあたかも株主であるかのように装って入場しようとする者が含まれていることが判明した。被告は、これら非株主の入場を拒否するとともに、これら非株主とひとかたまりになって入場しようとしている原告らグループのうち、株主であることが明白である者を除くその他の者らに対し、順次、氏名や住所等を問い、その者が所持している議決権行使書用紙に記載されている事項と合致しているかどうかを確認した。その結果、原告らグループの中の数名は、自分が非株主であることを認め、入場しなかった。

(5) 手荷物預かり

被告は、本件総会に際して、受付前に看板を設置して株主に対し手荷物をクロークに預けるよう要請し、電気ホール内に手荷物預かり所を設けた。

被告は、鞄、傘、カメラなどを所持している株主に対して、手荷物預けの要請を一様にし、手荷物を預かる場合、必ず当該株主の了解を得て預かった。株主が手荷物を預けることを拒んだ場合、当該株主の了解を得たうえで手荷物の中身を調べ、横断幕やビラ、チラシ、ゼッケン等議事妨害のおそれのある物が入っていないことを確認して、手荷物の持込みを認めた。カメラについても、本件総会においてその持込みを禁止してその遵守方を株主に要請したが、これを預かる場合には、他の手荷物と同じように株主の了解を得て預かった。

なお、カメラを所持した非株主が入場しようとしたが、被告は、非株主であるがゆえにその入場を拒否した。

4(一)  請求原因3(二)の事実のうち、本件総会に先立つ昭和五九年六月二五日、「電源乱開発に反対する九電株主の会事務局長中島真一郎」名義で、被告に対し、別紙質問項目表一ないし四〇記載のとおり四〇項目の質問事項が記載された事前質問状が提出されたこと、右事前質問状には、マイクを準備してもらいたい旨の付記のあったこと、本件総会において、議長が質問事項について各担当取締役をして答弁させたこと、議長が退場を命ずることもあると警告したこと、別紙質問項目表三六、三八及び三九記載の三項目の質問事項について、被告取締役が本件総会の目的に関係しないことを説明したこと、原告三森、同岸、同藤木、同平井らが口頭による追加質問に立ったことは認め、原告らが本件総会の席上において口頭で事前質問状記載の各質問事項の趣旨を補充したうえで被告の具体的説明を求める予定であったことは不知、その余は否認する。

(二)  被告の主張

(1) 本件総会前日まで

昭和五九年六月二五日、株主の会を代表して原告平井ら二名が被告を訪れ、事前質問状を被告に手渡すとともに、同書面に記載された四〇項目の質問事項について、約一時間二〇分にわたりその趣旨を説明した。

右同日、原告平井らは、株主の会として新聞記者などと記者会見をし、今回の被告の株主総会は七時間以上の長時間総会としたい旨を発言して、本件総会に出席する意図が株主総会の長時間化にあることを明言していた。

(2) 事前質問状に対する説明

事前質問状を提出しただけでは、取締役等の説明義務が生じるものではない。すなわち、取締役等の説明義務を定める商法二三七条ノ三第一項は、「総会ニ於テ株主ノ求メタル事項ニ付」取締役等は説明することを要するとして、総会会場における株主の発問があって初めて説明義務が生じる旨を明確にしており、他方、いわゆる事前質問状の意義については、同条二項が、事前に書面により質問事項を通知したときは「調査ヲ要スルコトヲ理由トシテ説明ヲ拒ムコトヲ得ズ」と定めるにとどまり、事前質問状に対しても説明義務が存するとは定めていないからである。したがって、事前質問状記載の質問事項に対する被告取締役の説明内容が不十分であったから説明義務違反がある旨の原告らの主張は、それ自体失当である。

なお、被告は、事前質問状記載の質問事項に対しても、以下のとおり、十分に説明義務を尽くしたものである。

本件総会当日、午前一〇時ころ、当時被告代表取締役社長であった川合辰雄が、本件総会の開会を宣言し議長に就任する旨、また、株主からの質問は報告事項の報告後に受ける旨告げて、出席株主数やその議決権ある株式数などについて事務局から報告させた。右冒頭手続後、午前一〇時四分ころから、報告事項につき代表取締役の報告及び監査役による監査報告がされた。

報告終了後、午前一〇時二〇分ころから、議長は、株主の質問に対する応答に入り、まず始めに、原告らの提出した事前質問状記載の質問事項に対し、別紙説明要旨一ないし四〇記載のとおり、各担当取締役に逐次その説明をさせた。説明に要した時間は、三七分間に及んだ。

(3) 口頭質問とこれに対する説明

午前一〇時五七分、議長は、議場に対し、口頭質問を受ける旨を告げ、これを受けて、阿尾株主、原告三森、同岸、同藤木、同平井ら五名が、順次、発言や質問などを行い、これに対し、被告は、以下のように、十分に説明義務を尽くしたものである。

まず、阿尾株主は、事前質問状記載の質問事項に対する説明の際に野次を飛ばしたり、不規則発言を繰り返していた原告らグループを指して、「先程から聞いておりますと、ここは株主総会の場所か、暴徒の場所か全然分からない。」と述べたうえで、株主総会のルールを守らない人間に対しては、議長は、毅然たる態度で今後の議事運営をして欲しい旨の意見を表明した。

原告三森は、「玄海原子力発電所三・四号機建設に伴う協力金について、いくらぐらいの金員が支出されているのか、玄海町長や同町議会議長は一九億円とか三〇億円とか言っているが、協力金の算定基準はあるのか。」との質問をした。

これに対し、議長は、右の質問については既に事前質問状記載の質問事項に対する説明の機会に十分に回答しており、具体的な金額などについては株主総会で説明することを差し控える旨答弁した。

次に、原告岸は、「同和問題について、公益的な存在である被告に果たす役割は極めて大きいので、これに関する決意を取締役・監査役の一人一人から聞かせてほしい。」旨の発言を行った。

これに対し、議長は、右の発言は、意見か要望か分からないが、いずれにしても株主総会で取り上げる問題ではないと答えた。

次に、原告藤木は、「人体に放射性ヨウ素が沈着するのを防止する効果があると言われているヨウ化カリについて、防災計画上の位置づけ、その効力、一般住民に対する配布ルート」の三点を質問した。

これは、事前質問状記載の質問事項と重複しており、既に説明ずみであったが、議長の指名を受けた白石常務取締役は、もともと原子力発電所の安全確保には万全を期しているが、ヨウ化カリが防災計画の一環として備え置かれていること、原子力安全委員会においてヨウ化カリの有効性が認められていること、一般住民に対しては県当局でヨウ化カリを配布する制度となっていることを説明した。

次に、原告平井は、「今回の決算において株式・社債の発行費、構築物等について会計処理が定額法から定率法に変更されていることは継続性の原則に抵触すると思うが、この変更は経常利益や当期利益にどのような影響を及ぼしているのか。」と質問した。

これに対し、議長は、その点については、既に説明しているのでそれで十分である旨を回答した。

さらに、原告平井は、原子力発電工事償却準備取崩し及び原子力発電工事償却準備金について誤解して、「前期は二六億円であったものが当期は一五七億円と六倍に増加したのはなぜなのか。」と質問し、また、価格変動準備金取崩しと原価変動調整積立金とは全く異なるものであるにもかかわらず、これを同一のものと誤解して、「前期は六〇〇〇万円くらいであるのに、当期は五〇億円に増えているのはなぜなのか。」と質問した。

これに対し、議長の指名を受けた川村常務取締役は、原子力発電工事償却準備金の約一五七億円の積立ては川内一・二号機の工事が最盛期に達しており、その対象工事に対して租税特別措置法の定めによって計上したものであること、五〇億円の原価変動調整積立金は他の準備金とは全く性質が異なること、約六〇〇〇万円の価格変動準備金については、今年度は租税特別措置法による積立限度額の計算率が下がったのでその取崩しのみで積立てはないことを説明した。

5(一)(1) 請求原因3(三)(1)の事実のうち、「質疑打切りの動議」が可決されたことは認め、その余は否認する。

(2) 被告の主張

被告は、事前質問状記載の質問事項については、その提出の際の原告らの説明で質問内容を理解したうえで、本件総会の目的事項とは関係のない質問事項を含めて、各担当取締役が懇切に説明をし、右説明の後、口頭による追加、関連質問を受け付け、これに対しても補充して回答すべきは回答し、既にした説明で十分と思われるものについてはその旨の説明をして、説明義務を十分に尽くしたものである。しかも、相当の時間経過した段階において、報告事項に関する「質疑打切りの動議」の可決を受け、議案の審議に進んだことは、株主の質問権を何ら不当に制限するものではない。

また、第一号、第二号議案の審議にあたっては、議長は、議案の説明後、出席株主から質問が出されていないことを確認のうえ、採決を行った。

株主総会決議取消訴訟において、会社役員による説明義務違反がその取消原因となっている場合、右説明義務は、総会の決議事項につき、株主が賛否の合理的な判断をするために必要な資料を提供しなければならないことを意味し、したがってまた、株主は、議決権行使の合理的な判断資料を獲得するために必要な範囲においてのみ、総会で役員に質問して説明を求めることができることを意味するところ、本件総会における決議事項に関する質問は、報告事項に関する質疑応答の中でされた原告平井の第二の質問、すなわち、原子力発電工事償却準備金及び原価変動調整積立金等に関する質問のみであり、これに対する説明が十分尽くされていることは前記のとおりである。

(二)(1)  同(2)の事実のうち、原告平井が本件総会の冒頭から動議を提出する旨の発言をしたこと、これに対し議長が後にしてほしい旨の要請を行ったこと、質疑応答の際に議長が原告平井の「監査特例法による会計監査人の総会出席を求める動議」を取り上げ、「私は必要はないと思うが皆様いかがでしょうか。」と議場に採否を諮ったこと、原告平井の右動議は反対多数で否決されたこと、近藤株主の「質疑打切りの動議」が可決されたことは認め、その余は否認する。

(2) 被告の主張

第一号、第二号議案の審議に当たっては、原告らは不規則発言を繰り返していたにすぎず、また、原告平井も、自席を離れて株主席前方に押しかけ、報告事項の「質疑打切りの動議」が可決されたことに抗議して不規則発言を繰り返していたにすぎない。そのため、議長は、動議の提出がないものと判断して議案の採決手続きに移ったものである。

(三)(1)  同(3)の事実のうち、第一号、第二号議案の可決宣言があったことは認め、その余は否認する。

(2) 被告の主張

議長は、午前一一時二七分、第一号議案の件を上程し、利益処分案の内容を説明して審議を求めたところ、質問者がいなかった。そこで議長は、議場に採決を諮ったところ、ごく少数の原告らグループが反対するのみで、圧倒的多数の株主が拍手したり、あるいは、「異議なし。」などの発言により賛成の意思を表明した。第一号議案については、議決権行使書による賛成が既に総議決権の過半数に達していたが、議長は、本件総会に出席している大株主四名が原案に賛成の意思を表明していることを確認したうえで、第一号議案が原案どおり可決されたことを宣した。

議長は、引き続き、第二号議案の件を上程し、その原案の内容を説明した後、審議を求めたところ、質問者がなかった。そこで議長は、議場に採決を諮ったところ、賛成の意思を表明する者が圧倒的多数であったため、第一号議案と同様に議決権行使書による賛成のほか総会出席の大株主四名の賛成を確認したうえで、第二号議案が原案どおり可決されたことを宣した。

議長は、午前一一時三一分、報告事項並びに議案の審議を終了したので、閉会を宣した。

右審議中に、会場内で喧噪な状態があったとしても、それは原告らグループが陣取っていた付近だけに限られていたもので、原告らグループ以外の大多数の株主らは極めて平静に議長の言動を注視していたし、また、議長による議案の上程、代表取締役による議案の説明、議長による議案の採決とその結果の宣言はいずれも会場内に設置されたスピーカーを通じて全株主に明確に伝えられ、会場内の全株主が十分に了知し得たものである。

他方、原告らグループは、決議事項の審議、採決の際、議長の再三にわたる注意、警告に従わず、自ら離席し、怒声を議場内に発するなどし、特に、原告平井は、原告らグループの中心的存在として活発な不規則発言や行動を展開し、第一号、第二号議案の審議採決に当たっては、株主席前方に押しかけ、装飾用花台を乗り越えたり、盛花を壊すなどの所為に及んだ。このようなことは株主総会のルール違反として厳しく指弾されるべきである。

6(一)  請求原因3(四)の事実のうち、本件総会終了後、原告松下龍一(原告松下)、同平井を含む約三〇名の者(上記二名の原告以外の原告らが含まれていたかどうかは不知。)が、被告本店のある電気ビル本館一階に入ろうとしたことは認め、その余は否認する。

(二)  被告の主張

右約三〇名の者は、電気ビル本館の管理者である株式会社電気ビルにより、ビル外に排除されたものである。

7  請求原因4の事実は、否認する。

第三  証拠<省略>

理由

一本案前の主張(原告適格)について

1  原告藤戸高光が昭和六〇年九月九日に、同田中嘉彰が同六一年三月一三日に、それぞれ被告の株主名簿上の株主から離脱したこと並びに同中ノ上智之が昭和六三年八月三〇日に、同続博治が同年九月二六日に、同松本泰が同年一一月二九日に、同浦上悦吉が平成元年三月二四日に、同藤木雄二が同月二八日に、同田中清次郎が同月三一日に、それぞれ単位未満株主となったことは、当事者間に争いがない。

2  本件訴訟は、原告らが被告の株主であるとして、本件株主総会における本件決議の取消しを求めているものであるところ、右株主としての資格は、本件訴えの提起時から口頭弁論終結時(平成三年二月五日)まで有することを要するものと解するのが相当である。

また、商法改正附則(昭和五六年六月九日法律第七十四号)一八条一項一号ないし六号において、単位未満株主の共益権が否定され、商法二四七条一項の株主総会決議取消訴訟提起権が単位未満株主の権利として規定されていないことからすれば、単位株式制度の下で本件決議の取消しを求めるためには、本件口頭弁論終結時まで単位株主であることを要すると解するのが相当である。

したがって、本件口頭弁論終結時において、原告藤戸高光、同田中嘉彰の二名は被告株主たる資格を喪失し、同中ノ上智之、同続博治、同松本泰、同浦上悦吉、同藤木雄二及び同田中清次郎の六名は単位株主ではなくなっていたのであるから、右原告ら八名は本件訴訟の原告適格を喪失したものであって、右原告ら八名の本件決議の取消しを求める訴えは、その余の点について検討するまでもなく、却下を免れない。

そこで、以下においては、右原告ら八名のその余の請求及び右原告ら八名を除くその余の一四名の原告らの本訴請求の当否について検討する。

二不当な所持品検査と入場の制限(請求原因3(一))について

1  請求原因3(一)の事実のうち、本件総会当日、株主の会の会員らを含む原告らグループ(ただし、原告田中清次郎は除く。)が、電気ビル別館前に午前八時から午前八時三〇分にかけて参集し、右ビル前で小集会を行っていたこと、午前九時ころ原告ら(ただし、原告中島こと須藤眞一郎、同田中清次郎を除く。)も電気ビル別館内に入ったこと、本件総会が午前一〇時開会であったこと、本件総会の会場が電気ビル別館内にある電気ホールであったこと、被告が被告従業員を案内係として電気ビル別館内やその周辺に配置したこと、被告従業員がゼッケンを着用していた者に対し、ゼッケンを外すよう要求したこと、被告が会場に入場しようとした者の入場資格を確認し、その結果株主でないと判明した者の入場を拒否したこと、原告ら二二名のうち、原告中島こと須藤眞一郎、同田中清次郎の二名を除く二〇名については、その株主名表示のある議決権行使書用紙を持参した者が、会場に入場したことは、当事者間に争いがない。

2  右当事者間に争いのない事実に後掲の証拠を総合すると、次のような事実が認められ、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

(一)  過去の被告株主総会をめぐる原告らの言動

原告平井は、他の原告らに先がけ、昭和五四年三月に「あげな原発いらんばい福岡の会代表平井孝治」名義で、被告の株式一〇〇株を取得してその株主となり、同年六月に開催された被告の第五五回定時株主総会に出席した。

昭和五六年六月、被告の第五七回定時株主総会が開催された。この株主総会には原告平井は出席しなかったが、竹内正宣と称する者が「あげな原発いらんばい福岡の会代表平井孝治」名義の出席票を持参し、自分は同会の会員であるとして総会会場に入場しようとした。しかし、被告の株主総会に出席できる者は、被告定款により、株主本人、あるいは、他の株主の代理人となった株主に限られているところ、右竹内正宣と称する者は、非株主であって右資格に該当しないので、被告は、その旨説明して同人の右総会への入場を拒絶した。

昭和五八年六月、少数の被告株式を保有する住民らが集まり、被告の電源開発に歯止めをかけるために意見を述べようとの趣旨のもとに、株主の会(「電源乱開発に反対する九電株主の会」)が発足し、原告らもこれに参加した。右株主の会には、会則、会員資格の規定もなく、総会も設置されていないなど、組織的集団というよりは、連絡網的な機能を中心とした集まりであった。

同年六月の被告の第五九回定時株主総会開催に当たり、原告平井は、事前に質問状を被告に提出のうえ、株主の会の会員二〇数名とともに右株主総会に出席した。この総会において、原告平井らは、開会直前に会場内でビラを配布したり、議長や答弁中の取締役に対し、不規則発言を繰り返すなどした。また、原告平井は、質問状の写しを出席株主に配布したい旨の動議等四つの動議を提出し、報告事項や各決議事項について数回にわたる口頭質問を行った。(<証拠>)

(二)  本件総会前日までの原告らの言動

昭和五九年六月二五日、株主の会を代表して原告平井ら二名が被告を訪れ、事前質問状を被告に手渡すとともに、質問事項の趣旨を説明するなどした。また、同原告は、この席で、四〇項目の質問を提出しており、一項目につき説明等に一〇分かかれば四〇〇分すなわち約七時間かかる旨の発言をした。

同日、原告平井らは、株主の会として新聞記者などと記者会見をした。翌日の新聞記事には、「昨年の総会では同株主の会への対応を中心に二時間三十分近くの長時間総会になっており、今回も同株主の会が『七時間くらいかけたい』といっていることから注目される。」旨の記載があった。

本件総会の前日である同月二八日、原告平井は、株主の会を代表して被告を訪れ、附属明細書の閲覧・謄写を請求し、被告はこれに応じた。その際、原告平井に応対した被告係員が、同原告に対し、株主総会には株主しか出席できないので、非株主が出席するようなことはないように、との注意を与えた。これに対し、同原告は、株主の会の会員であれば、株主名簿上の名義の有無にかかわらず、誰でも入場資格があるのであって、本件総会に非株主が入場することもあり得ると答えた。そのため、原告平井に応対した者から関係者に対して、本件総会に非株主が入場して来るかも知れないから、受付では十分注意するようにとの連絡がされた。(<証拠>)

(三)  本件総会当日の開会前の状況

(1) 案内係の配置等

被告の株主総会は、年々出席者数が増加し、従来の会場では手狭となったため、本件総会から総会開催場所を変更し、被告はその従業員を案内係として、本件総会会場の電気ホールのある電気ビル別館の周辺に配置した。また、電気ビル別館は、いわゆる雑居ビルであり、同ビルの正面玄関から会場の受付に至る通路は銀行支店等の第三者の店舗や事務所に用件のある者たちも共用して通行する部分であることから、被告は、右通路にも案内係を約二〇名配置した。右通路にはまた、数名の制服ガードマンも配置されていた。電気ビル別館内に配置された右案内係の役割は、被告株主総会に出席しようとする者と他の用件で同ビルを訪れた者とを整理してそれぞれの案内をするとともに、株主総会に出席しようとする者については、受付前の段階で議決権行使書用紙を所持しているか否かを確認して、非株主の入場を未然に防止するとともに株主を受付の前に整列させることにあった。

被告は、会場における不測の事態に備えるため、本件総会に先立って警察に警備要請をするとともに、本件総会当日は議場内に五人分の警察官席を用意し、五人の警察官が右要請に応じて、会場の所定の位置に臨席した。

なお、被告は、受付の手前に、「株主総会にご出席の方は議決権行使書用紙をご提示ください。単位株主以外の方の入場をお断りします。」、あるいは、「カメラ、ハンドマイク・トランシーバー及びプラカード・横断幕等の持込み並びにゼッケン等の着用は固くお断りいたします。」と記載した立て看板を設置しておいた。(<証拠>)

(2) 原告らグループによる集会

本件総会当日の午前八時ころから午前八時三〇分ころにかけて、電気ビル別館正面玄関前の歩道付近に株主の会の会員ら四〇名ないし五〇名が集合し、午前九時ころにかけて、「電源乱開発反対」などと大書した横断幕を張ったり、「反原発」、「核のない社会を」、「電源乱開発を許すな」などと書かれたゼッケンを着用して、小集会を行った。この小集会には、原告田中清次郎を除く原告らの大半が参加した。(<証拠>)

(3) ゼッケンの取外し要求

前記小集会が行われていたころ、会場受付前には株主が参集し始め、午前八時三〇分ころには約一〇〇名ほどに達した。そこで、被告は、午前九時前に受付を開始し、株主を順次会場内に導入し始めた。このころ、原告らグループも小集会を終えて、三〇ないし四〇名がかたまって受付前に参集し、会場内に入ろうとした。

しかし、右原告らグループの中には、右小集会において着用していたゼッケンをそのまま着用していた者が含まれていたため、被告は、ゼッケン着用者に対し、ゼッケンを外して入場するよう要求し、これを外させた。(<証拠>)

(4) 受付付近における資格確認

被告株主総会に出席できるのは、議決権を有する株主に限られ、また、被告定款によれば、株主が代理人を出席させる場合でも代理人になり得る者は議決権を有する株主のみであるので、被告は、会場受付において、来場者が議決権を有する株主であるかどうかを確認する手続きを行った。

すなわち、被告は、事前に議決権を有する株主全員に対し総会招集通知と当該株主の住所、氏名などを明記した議決権行使書用紙各一通を発送し、総会に出席する際は各自に送付された議決権行使書用紙を会場受付に提出するよう求め、受付に議決権行使書用紙を提示した来場者は、特別の事情のない限り、同書面に記載された株主と推認して入場させることとした。しかし、特別の事情があるため来場者が株主か否かにつき疑義が生じたときには、その者に氏名、住所、持株数を尋ねるなどの方法によって、株主であるか否かを確認し、その結果、来場者が株主でないことが判明した場合には、たとえその者が議決権行使書用紙を提示したとしても、その入場を拒否することとしていた。

被告は、本件総会において、会場である電気ホール入口の内側の左右に受付机を各一台設置して受付事務を行ったが、この受付に至る少し手前の通路部分においても、被告案内係が、来場者が議決権行使書用紙を所持しているか否かの確認をした。

午前九時ころ、原告らグループ三〇ないし四〇名がひとかたまりとなって受付前に参集したので、被告案内係は、まず、受付手前の通路において、これらの者に対して、議決権行使書用紙の提示を求めた。その結果、二ないし三名の者が議決権行使書用紙を所持しておらず、株主でもなかったので、これらの者については、入場を拒否した。

被告は、また、受付において、ひとかたまりになって入場しようとしている原告らグループのうち、被告受付係が既に顔や氏名を知っていて株主であることが明白である者を除くその他の者に対し、順次、氏名、住所等を問い、その者が所持している議決権行使書用紙に記載されている事項と合致するかどうか、すなわち、その者が議決権行使書用紙に記載された株主であるかどうかを確認した。その結果、原告らグループの中の数名、すなわち、田口常幸名義の議決権行使書用紙を提示した者、斎藤岬名義の議決権行使書用紙を提示した者らについては、非株主であることが判明し、被告は、その入場を拒否した。なお、原告らグループの中で、議決権行使書用紙に記載された株主本人以外の者で、商法二三九条二項(商法等の一部を改正する法律《平成二年法律第六十四号》附則一条に基づき制定された政令第三百五十一号による同法律の施行前の商法二三九条三項。以下、同様。)所定の「代理権ヲ証スル書面」を提示したうえで入場しようとした者はいなかった。

しかし、被告が右資格確認手続をしたにもかかわらず、原告らグループの中の非株主数名、すなわち、津田賢治、木村京子、川瀬治男、山川道介、水田邦広らが、会場に入場していた。(<証拠>)

(5) 手荷物預かり

被告は、受付前に看板を設置して株主に対し手荷物をクロークに預けるよう要請し、電気ホール内に手荷物預かり所を設けた。被告は、鞄、傘、カメラなどを所持している株主に対して、手荷物預けの要請を一様にし、手荷物を預かる場合には、当該株主の了解を得てから預かった。株主が手荷物を預けることを拒んだ場合には、当該株主の了解を得たうえで手荷物の中身を調べ、横断幕やビラ、チラシ、ゼッケン等が入っていないことを確認して、手荷物の会場内への持込みを認めた。また、被告は、カメラの会場への持込みも禁止し、これを預かる場合にも、他の手荷物と同じように株主の了解を得てから預かった。

原告平井は、入場する際に被告会場係からバッグを預けるよう求められ、バッグの中に本件総会での質問に供する資料を入れていたので、これを拒否した。同原告は、さらに中身を見せるよう求められ、これに応じてバッグを開いて中身を見せたところ、右資料が入っていることがわかり、バッグを持ったまま入場することができた。原告清水泰も、被告従業員からバッグを預けるよう求められ、自らバッグを開けて中身を見せ、中に入れておいたカメラを預けて、入場した。原告岸は、手荷物検査のことで被告従業員と口論となったが、会場に入場することはできた。原告藤戸高光も、ガードマンから手荷物の検査を受けた。株主の会の会員神谷杖治は、ガードマンから手荷物を預けるよう求められたが、質問に必要な資料であることを説明して納得させて入場した。原告らグループの中には、テープレコーダーを会場内に持ち込んだ者もいた。

株主の会の会員であった黒瀬徹はカメラを所持したまま入場しようとしたが、同人は非株主であった。被告は、右黒瀬徹が非株主であるがゆえにその入場を拒否した。原告平井は、これに抗議したところ、ガードマンら四ないし五名の者により、一度会場外に連れ出された。

原告清水満は、受付を済ませた後、会場外へ出ようとしたところ、被告受付係の者が番号、氏名等を確認してようやく会場外へ出ることが許された。同原告が、これに抗議すると被告受付係の者が、「全員、偽者のくせに。」と発言した。(<証拠>)

(6) しかしながら、ゼッケンをむりやり外させたこと、受付付近に私服の警察官がいたこと、資格確認につき被告と警察官とが通じあっていたこと、手荷物を預けるよう有無をいわさず強要し中身を検査するためにやにわに力ずくでバッグを取り上げたこと、株主をカメラ所持という理由のみで会場外に排除したことを認めるに足りる証拠はない。

この点、原告清水泰は捜査の腕章を着けた私服の警察官がビデオカメラで原告らグループを撮影していた旨供述するが、右供述の内容自体あいまいで不正確な点が多く、他に右供述を補強する客観的証拠もなく、被告が私服の警察官に依頼して原告らグループについて捜査をしなければならない合理的必要がないことに照らすと、右供述はたやすく信用することはできない。

3  右当事者間に争いのない事実及び認定事実に基づいて、被告のした入場の制限と所持品検査が不当なものであったか否か検討する。

(一)  本件総会への入場者の制限について

(1) 非株主や代理人でない者が株主総会に出席して発言したり議決権を行使することは、議事の進行や会議体としての決議の成立に重大な影響を及ぼすおそれがあり、被告定款も被告株主総会において議決権を行使しうる者の資格を株主に制限しているところ、過去において「あげな原発いらんばい福岡の会代表平井孝治」名義の議決権行使書用紙を持参して被告株主総会に入場しようとした非株主がいたことや本件総会直前にも原告平井の非株主の入場を示唆する発言があったことからして、非株主が本件総会に入場しようとする相当な蓋然性があり、なおかつ、現実にも多数の非株主を含む原告らグループがひとかたまりになって入場しようとした状況の下では、被告が入場資格を確認する必要は肯認される。

次に、その方法として、議決権行使書用紙の提示を求め、なお、その提示者と議決権行使書用紙名義人との同一性に疑義が生じたときに、提示者に氏名、住所、持株数等を質問して株主本人か否か確認することは、相当なものといえる。入場資格を確認したために株主が入場を拒否されたという事実はなく、かえって、株主の会の会員で、かつ、非株主である者数名が、結果として入場していることからしても、執拗な態様における資格確認であったとはいえない。

議決権行使書用紙を提示しながらも入場を拒否された非株主は、いずれも被告株主名義の議決権行使書用紙のみを提示して入場しようとしたものであって、商法二三九条二項所定の「代理権ヲ証スル書面」を提示したわけではないので、被告がこれらを株主の代理人として扱わなかった点も、不当なものとはいえない。

(2) なお、商法二三九条二項は、議決権行使の代理人資格を制限すべき合理的理由がある場合に、定款の規定により、相当と認められる程度の制限を加えることまでも禁止したものではないところ、議決権を行使する代理人の資格を株主に限る旨の被告定款の規定は、株主総会が株主以外の第三者によって攪乱されることを防止するのみならず、株式会社の機関である株主総会がその構成員のみによって運営されるべきであるとの会議体としての本則に則った合理的な理由に基づく相当と認められる程度の制限といえることから、株主の議決権行使に不当な制約を生ずる特別な事由がある場合を除いて、有効と解するのが相当である。したがって、仮に、原告ら主張のように、非株主である株主の会の会員が株主である株主の会の会員の代理人として入場しようとしたものであったとしても、株主である株主の会の会員が他の株主である株主の会の会員に議決権の代理行使を委ねることが可能であった以上、議決権行使に不当な制約を生ずる特別な事情があるとはいえず、代理人として本件総会に入場しようとした者が、非株主であるがゆえにその入場を拒否されたことをもって、不当な入場制限ということはできない。

(二)  所持品検査等について

(1) ゼッケンの取外し要求について

原告ら主張のとおりゼッケンが着衣による言論表現であるとしても、意見を異にする多数の株主が参集する株主総会においては、ゼッケン着用それ自体一方的で継続的な発言と捉らえられかねず、また、ゼッケン着用者が集団的行動をとれば他の株主に対する示威行為にもなりかねず、議事運営に混乱を来すおそれのあることを否定することはできない。平穏かつ理性的に議論することのできる秩序ある会議体として株主総会の議事を運営すべき立場にある被告が、そのような株主総会の場にふさわしくないと判断して、ゼッケン着用者に対してこれを外すよう要求してこれを外させたことについては、ゼッケン着用者としても適式に発言の機会を得て発言することまでも制約されたわけではないのであるから、不当なものとはいうことはできない。

(2) 手荷物預かり等について

株主総会の会場内でみだりに横断幕を張ったり、ゼッケン着用やビラ、チラシの配布行為がされると、議場の平穏が乱され、円滑な議事進行の妨害となるおそれがあることは否定できない。

他方、原告らグループは、本件総会直前において横断幕やゼッケンを使用しての小集会を行っており、前年度の被告株主総会会場において原告らグループの者が会場においてビラを配布したこともあったのであるから、本件総会においても会場内にこれらのものが持ち込まれる可能性が十分考えられる状況にあったといえる。

かかる状況において、秩序ある株主総会の議事を運営すべき立場にある被告がバッグを一時的に預けるよう要請し、これに応じない者については、バッグの中にこれらのものが入っていないことを確認しようとすることは、不当なものとはいえない。また、被告は、手荷物預けの要請を原告らグループに対してだけではなく会場に入場しようとした者に対して一様にしており、本件総会に供する資料の入ったバッグについては、その中身を確認したうえで会場内への持込みを認めており、この点においても不当なところはない。

次に、会場内において不特定の株主が不規則に写真撮影を行うことは、プライバシーの問題から株主相互の不快感や軋轢の原因となりかねず、議場の平穏を乱すおそれがあるほか、自由な質疑討論の妨げにもなりかねない。したがって、被告が会場へのカメラ持込みを禁止することとしたことは、それによって株主にも特段の不利益は生じないので、被告の有する議事運営権の裁量の範囲内にとどまるものであって、不当なものとはいえない。

(三)  以上のとおりであって、原告平井を会場外へ連れ出したり、原告らのひとりに対する「全員、偽者のくせに。」と発言のあったことは、確かに穏当を欠いたものとはいえるが、株主として本件総会への出席を制限されたというわけではなかったことから、本件決議に瑕疵を及ぼすほどの不当性、違法性があるとまではいえず、その他被告のした入場制限や所持品検査等に不当なところはないのであるから、この点の原告の主張は理由がない。

三説明義務違反(請求原因3(二))について

1  請求原因3(二)の事実のうち、昭和五九年六月二五日、被告に対し、「電源乱開発に反対する九電株主の会、事務局長中島真一郎」名義で別紙質問項目表一ないし四〇記載のとおり四〇項目の質問事項が記載された事前質問状が提出されたこと、右事前質問状には、マイクを準備してもらいたい旨の付記のあったこと、本件総会において、議長が右質問事項のうち三項目を除く三七項目について各担当取締役をして答弁をさせたこと、右答弁をしなかった三項目については、本件総会と関係ないと説明したこと、議長が退場を命ずることもあると警告したこと、原告三森、同岸、同藤木、同平井らが口頭による追加質問に立ったことは、当事者間に争いがない。

2  右当事者間に争いのない事実に後掲の証拠を総合すると、次のような事実が認められ、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

(一)  本件決議事項の原案提示

被告は、本件総会に先立ち、昭和五九年六月一四日付けで株主全員に対して「第六〇回定時株主総会招集のお知らせ」と題する本件総会招集通知の小冊子(総会招集通知)を発送した。

被告は、右通知において、第一号議案「第六〇期利益処分案の承認について」として、具体的金額を明示しながら、当期未処分利益と価格変動準備金取崩しや原子力発電工事償却準備金取崩し等の各種準備金取崩しとの合計額のうち、利益準備金、配当金として処分するほか、一部を原子力発電工事償却準備金や原価変動調整積立金として処分したい旨の原案を提示した。なお、この通知には、右原案の参考事項として、「価格変動準備金、原子力発電工事償却準備金等については、租税特別措置法の規定による額を取り崩しまたは積み立てたい。原価変動調整積立金については、今後の原価高騰に備え、経営基盤の強化と電気料金の安定に資するために積み立てたい。」旨の説示があった。

また、被告は、第二号議案「退任監査役に対し慰労金贈呈について」として、昭和五八年九月二〇日付けで辞任した監査役に対し、一定の基準に従い妥当な範囲で慰労金を贈呈したいが、贈呈の金額、時期、方法等については監査役の協議に一任されたい旨の原案を提示した。(<証拠>)

(二)  事前質問状の提出とその趣旨説明

昭和五九年六月二五日、株主の会を代表して原告平井ら二名が被告を訪れ、別紙質問項目表一ないし四〇記載のとおりの四〇項目の質問事項の記載された事前質問状を被告に手渡した。

その際、原告平井らに対し、被告からは立地環境課、広報課、営業部サービス課、総務課、文書課の各課長五名がそろって約一時間二〇分ほど面会し、まず、原告平井らから質問事項の趣旨説明を受け、次いで、趣旨の不明瞭な質問事項について各担当課長が趣旨を問い質すなどして、説明を受けた。

被告は、右のやりとりを経た後、関係主管部に指示するなどして、事前質問状記載の質問事項に対する答弁書を作成した。(<証拠>)

(三)  事前質問状記載の質問事項に対する一括答弁

本件総会当日、午前一〇時ころ、被告代表取締役社長であった川合辰雄が、本件総会の開会を宣言し議長に就任する旨、また、株主からの質問は報告事項の報告後に受ける旨告げて、出席株主数やその議決権ある株式数などについて事務局から報告させた。右冒頭手続後、午前一〇時四分ころから、報告事項につき代表取締役の報告及び監査役による監査報告がされた。

報告事項に関する報告が終了した後、午前一〇時二〇分ころから、議長は、株主の質問に対する応答に入り、まず始めに、原告らの提出した事前質問状記載の質問事項に対し、一括してこれに対応し、別紙説明要旨一ないし四〇記載のとおり、各担当取締役七名に逐次その説明させた。右一括答弁は、本件総会の目的事項に関連しない三項目の質問事項を除き、第六〇期利益処分案(第一号議案)に関する質問事項、第六〇期営業報告書に関する質問事項、第六〇期貸借対照表あるいは損益計算書に関する質問事項、各発電所に固有の質問事項、被告が関与する訴訟に関する質問事項について、各事項毎に質問事項を読み上げたうえでの説明であり、その説明の程度は一応客観的に合理的と考えられる程度の詳しさであった。右一括答弁に要した時間は、三七分間であった。(<証拠>)

(四)  口頭質問とこれに対する答弁

午前一〇時五七分、議長は、議場に対し、口頭質問を受ける旨を告げ、これを受けて、阿尾株主、原告三森、同岸、同藤木、同平井ら五名が、順次、発言や質問などを行い、これに対し、被告は、以下のように、対応した。

まず、阿尾株主は、「先程から聞いておりますと、ここは株主総会の場所か、暴徒の場所か全然分からない。」と述べたうえで、株主総会のルールを守らない人間に対しては、議長は、毅然たる態度で今後の議事運営をして欲しい旨の意見を表明した。

原告三森は、「玄海原子力発電所三・四号機建設に伴う協力金について、いくらぐらいの金員が支出されているのか、玄海町長や同町議会議長は一九億円とか三〇億円とか言っているが、協力金の算定基準はあるのか。」との質問をした(口頭質問①)。

これに対し、議長は、右の質問については既に事前質問状に対する一括答弁の際に十分に回答しており、具体的な金額などについては本件総会で説明することを差し控える旨答弁した。

次に、原告岸は、「同和問題について、公益的な存在である被告に果たす役割は極めて大きいので、これに関する決意を取締役・監査役の一人一人から聞かせてほしい。」旨発言した(口頭質問②)。

これに対し、議長は、右の発言は、意見か要望か分からないが、いずれにしても株主総会で取り上げる問題ではないと答えた。

続いて、原告藤木は、「人体に放射性ヨウ素が沈着するのを防止する効果があると言われているヨウ化カリについて、防災計画上の位置づけ、その効力、一般住民に対する配布ルート」の三点を質問した(口頭質問③)。

議長の指名を受けた白石常務取締役は、もともと原子力発電所の安全確保には万全を期しているが、ヨウ化カリが防災計画の一環として備え置かれていること、原子力安全委員会においてヨウ化カリの有効性が認められていること、一般住民に対しては県当局でヨウ化カリを配布する制度となっていることを説明した。

続いて、原告平井は、「今回の決算において株式・社債の発行費、構築物等について会計処理が定額法から定率法に変更されていることは継続性の原則に抵触すると思うが、この変更は経常利益や当期利益にどのような影響を及ぼしているのか。」と質問した(口頭質問④)。

これに対し、議長は、その点については、既に説明しているのでそれで十分である旨を回答した。

さらに、原告平井は、「原子力発電工事償却準備金が、前期は二六億円であったものが当期は一五七億円と六倍に増加したのはなぜなのか。価格変動調整積立金が、前期は六〇〇〇万円くらいであるのに、当期は五〇億円に増えているのはなぜなのか。」と質問した(口頭質問⑤)。

これに対し、議長の指名を受けた川村常務取締役は、原子力発電工事償却準備金の約一五七億円の積立ては川内一・二号機の工事が最盛期に達しており、その対象工事に対して租税特別措置法の定めによって計上したものであること、原価変動調整積立金は他の準備金とは性質が異なるのであって、質問者は積立金と準備金とを比較混同して質問していること、価格変動準備金については、当該年度は租税特別措置法による積立限度額の計算率が下がったためその取崩しのみで積立てはないことを説明した。

なお、右口頭質問⑤に関しては、事前質問状に対する一括答弁の際に、被告から、原子力発電工事償却準備金は租税特別措置法の規定による額を積み立て、原価変動調整積立金については、今後予想される原価の高騰に備え、電気料金の長期安定化に役立てることとする旨の説明があった。(<証拠>)

(五)  「質疑打切りの動議」の可決

右質疑応答の後、近藤株主から「質疑打切りの動議」が提出され、採決に付された後、議長は、賛成多数で可決されたとして質疑を打ち切った。(<証拠>)

3  右当事者間に争いのない事実及び認定事実に基づいて、本件決議につき被告の説明義務違反が存したか検討する。

(一)  事前質問状についての説明義務違反

(1) まず、被告が、原告らにおいて事前質問状に記載して提出した四〇項目の質問事項につき、原告らによる質問趣旨の補充を待つことなく、三七項目については一括しておざなりな答弁をし、三項目については全く説明しなかった点において、説明義務違反がある旨の原告の主張について検討する。

(2) 取締役等の説明義務は、商法二三七条ノ三第一項の規定から明らかなように、総会会場において株主から説明を求められて初めて生ずるものである。

他方、商法二三七条ノ三第一項、第二項の規定から明らかなように、事前質問状提出の制度は、株主が総会会場において説明を求めることを予定している事項(質問)を書面により事前に通知するものであって、右書面による通知があったときには、当該事項につき、調査を要することを理由に説明を拒絶することを制限する効果をもつにすぎず、事前質問状の提出をもって、直ちに総会会場における質問と同視することはできない。

したがって、事前質問状の提出のみによっては、当該事前質問状記載の質問事項につき取締役等に説明義務は生じないものといわざるを得ない。

(3) 本件においては、前示の事実のとおり、原告らが被告に対し事前質問状を本件総会に先立って提出し、これに対して被告が一括答弁したことは認められるが、右事前質問状記載の質問事項については、被告の説明義務は生じておらず、したがって、この点につき被告の説明義務違反を問題とする余地はない。

(二)  口頭質問についての説明義務違反

(1) 決議事項と質問との関連性

次に、口頭質問①ないし⑤に対する説明義務違反について検討する。

取締役等の説明義務を定める商法二三七条ノ三第一項但書において、「其ノ事項ガ会議ノ目的タル事項ニ関セザルトキ」は説明することを要しない、と規定している。すなわち、質問が当該総会の目的事項に関連するものである場合に取締役等の説明義務が生ずるところ、総会の目的には、決議事項のみならず報告事項も含まれるから、取締役等の説明義務は、右両事項に及ぶが、説明義務違反の存否は、個々の目的事項と質問との関係で論ずるべきである。

すなわち、ある目的事項について株主が賛否の態度を決定するために通常必要な説明をすべき義務が尽くされなかったことにより、看過することのできない瑕疵が目的事項の決議に及ぼされるがゆえに、当該目的事項の決議が取り消されるのであって、仮に報告事項について取締役等の説明義務違反があっても、それによって当該取締役等に過料の制裁が課せられるのは格別(商法四九八条一項一七号ノ二)、説明義務違反という瑕疵がない別の目的事項の決議についてまで、これを理由に決議を取り消すことはできないと解するのが相当である。言い換えると、株主総会決議取消訴訟において、取締役等の説明義務違反が問題となるのは、それを理由として取消しが求められている総会の目的事項である決議事項に関連する質問に限られると解すべきである。

そこで、各口頭質問との関連につき本件総会における目的事項のうち決議取消しの訴えの対象となっている決議事項である第一号議案(第六〇期利益処分案の承認について)と第二号議案(退職監査役に対し慰労金贈呈について)に関してそれぞれ検討するに、まず、口頭質問①及び③は、被告の有する原子力発電所とその建設地域との関係に関する質問であって、第一号、第二号議案のいずれとも関連がない。

次に、口頭質問②は、同和問題に対する被告の一般的姿勢についての質問であって、第一号、第二号議案のいずれとも関連がない。

口頭質問④は、構築物と株式発行費・社債発行費の償却方法を変更したことが、企業会計原則にいういわゆる継続性の原則に抵触しないかを問う質問、すなわち、貸借対照表及び損益計算書の内容報告についての質問であり、いわゆる報告事項に関する質問であって、決議事項たる第一号、第二号議案のいずれとも関連しない。

口頭質問⑤は、第六〇期利益処分案に計上されている原子力発電工事償却準備金と原価変動調整積立金の増額理由を問う質問であり、会議の目的たる第一号議案に関する質問である。しかし、第二号議案とは関連がない。

以上から、説明義務違反の存否が問題となる質問は、第一号議案との関連において、口頭質問⑤のみであって、第二号議案と関連するものは存しないというべきである。

(2) 説明義務の範囲・程度

株主総会の権限は、決議により会社の意思を決定することであり、取締役等の説明義務は、株主総会における決議事項につき、株主が賛否を決するために合理的判断をなすために必要な資料を提供するところにあると解される。とすれば、取締役等の説明義務は、合理的な平均的株主が、株主総会の目的事項を理解し決議事項について賛否を決して議決権を行使するにあたり、合理的判断をするのに客観的に必要な範囲において認められるものと解すべきである。

本件についてこれをみるに、前示の事実によれば、第一号議案については、総会招集通知において、当期未処分利益その他各種準備金の額及びその合計額を具体的に明示し、具体的金額を示しつつこれを利益準備金、配当金等として処分するほか、一部を原子力発電工事償却準備金、原価変動調整積立金として処分したい旨提示があった。口頭質問⑤は、右原子力発電工事償却準備金及び価格変動調整積立金のそれぞれ増加理由を問うものであるが、被告により、一括答弁と口頭質問に対する説明を通じて、前者については、その増加理由の、後者については、質問者が原価変動調整積立金と価格変動準備金とを混同していることを指摘しつつ、原価変動調整積立金の増加理由及び価格変動準備金の取崩し理由の説明があったものといえる。

してみると、右被告の説明により、第一号議案について株主が合理的判断により賛否を決するために客観的に必要な資料が提供されたものといえるのであって、被告に説明義務違反があったとは認めることができない。

4  以上のとおりであって、本件決議について被告に説明義務違反があった旨の原告らの主張は、理由がない。

四議事運営の不公正及び決議方法の瑕疵(請求原因3(三)及び(四))について

1(一)  請求原因3(三)(1)ないし(3)の事実のうち、原告平井が本件総会の冒頭から動議を提出する旨の発言をしたこと、これに対し議長が後にしてほしい旨の要請を行ったこと、質疑応答の際に議長が原告平井の「監査特例法による会計監査人の総会出席を求める動議」を取り上げ、「私は必要はないと思うが皆様いかがでしょうか。」として採否を会場に諮ったところ、右動議が反対多数で否決されたこと、近藤株主による「質疑打切りの動議」が可決されたこと、第一号、第二号議案の可決宣言があったことは、当事者間に争いがない。

(二)  同(四)の事実のうち、本件総会終了後、原告松下、同平井を含む約三〇名の者が、被告本店のある電気ビル本館一階に入ろうとしたことは、当事者間に争いがない。

2  右当事者間に争いのない事実に後掲の証拠を総合すると本件総会の開始から終了までの経過等として、次のような事実が認められ、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

(一)  冒頭手続及び報告事項の報告の状況

本件総会の会場においては、舞台上に議長席を含む役員席と事務局席が設けられ、舞台のすぐ下には舞台と株主席とを隔てるように装飾用花台が設置されていた。議長席にはマイクが設置され、会場内のスピーカーを通してその声が会場全体に聞こえるようになっていた。

原告らグループは、受付を済ませた後、会場のほぼ中央、前から一〇列目周辺にまとまって着席した。

午前一〇時、当時の被告代表取締役社長川合辰雄が冒頭の挨拶に立ったところで、原告岸が「入場チェックについて釈明せよ。」として「入場チェックについての説明を求める動議」の提出を求めて発言したが、受理されるところとはならなかった。

右社長は、引き続き、本件総会の開会を宣言、自分が議長に就任する旨、また、株主からの質問は報告事項報告終了後に受ける旨を述べ、出席株主数やその議決権ある株式数などについて事務局から報告させた。

右冒頭手続後、議長は被告代表取締役として、「第六〇期営業報告書、貸借対照表及び損益計算書の内容報告について」の件を上程し、右各書類については、取締役会の承認決議がされたうえ、総会招集通知添付書類記載のとおり会計監査人及び監査役より適法かつ正確であるとの監査報告書が提出されている旨を説明した。さらに、営業報告書、貸借対照表、損益計算書の各内容を口頭で説明して報告した。

右報告の間、株主から不規則発言があったほか、原告岸から、「入場チェックの説明を求める動議」の提出を求める発言がされ、また、原告平井から「監査特例法による動議を提出します。」などとして「監査特例法による会計監査人の総会出席を求める動議」を提出したい旨の発言がされたが、いずれも受理されなかった。そのため、原告平井は動議の提出を求めて立席したり、自分の席を離れて株主席前方に押しかけるなどした。議長は、たびたび右報告を中断し、静粛にするよう、元の席に戻るよう、発言は報告事項の報告終了後にするよう注意し、また、議長の指示に従わないときは退場を命ずることがある旨警告した。

議長の報告終了時、原告平井から「監査特例法による会計監査人の出席を求める動議」を提出したい旨の発言がされたが、議長は、監査役の報告終了後に発言するよう、これを制した。

続いて、被告常任監査役が、第六〇期の監査結果は総会招集通知添付の監査報告書謄本のとおりであり、本件総会に提出された議案及び書類については、法令、定款に照らして指摘する事項はないとして報告を了した。(<証拠>)

(二)  事前質問状記載の質問事項に対する説明の状況

右報告事項の報告が終了した午前一〇時二〇分ころ、議長は、許可なく発言することは差し控えるよう注意したうえで、株主の質問に対する応答に入った。

まず、議長は、追加質問等については事前質問状の質問事項に対する説明の後で受ける旨述べて、前示三2(三)のとおり、一括答弁に入った。

最初の担当取締役が説明を始める直前に、株主席から不規則発言があったほか、原告平井から「議長、動議。」などとして「監査特例法による会計監査人の総会出席を求める動議」の提出を求める発言があったが、受理されるところとはならなかった。

次々と各担当取締役による一括答弁がされている間、原告らグループからは「質問の趣旨が違う。」、「回答の趣旨が違う。」、「うそつけ。」、「質問、質問。」その他各質問事項に対する説明への不満など多くの不規則発言があった。また、原告平井は、離着席を繰り返していた。議長は、たびたび議事の進行を中断して、議事の妨げになるから静かにするよう、追加質問は説明終了後にするよう注意し、議長の指示に従わないときは退場を命ずることがある旨警告した。(<証拠>)

(三)  口頭質問とこれに対する説明の状況

午前一〇時五七分、右一括答弁終了後、議長は、議場に口頭質問を受ける旨を告げたところ、多数の株主が挙手して発言や質問を求めた。

なお、株主が発言、質問するにあたっては、議長が議場の発言希望者の中から特定の者を指示すると、会場内のマイク係がその発言者のところに赴いて四本用意された株主発言用マイクのうち一本を手渡し、そのときに会場外の係の操作によりマイクの電源が入り、右株主の発言が終わって議長や担当取締役等の答弁に移ると、同様に会場外の係の操作により右株主発言用マイクの電源が切れる仕組みとなっていた。

議長の指名を受けて、阿尾株主、原告三森、同岸、同藤木及び同平井ら五名が、順次、発言や質問を行い、被告は、前示三2(四)のとおり対応した。

また、原告平井は、自己の質問に先立って、営業報告書中の監査報告書について会計監査人に質問したいとして、「監査特例法による会計監査人の総会出席を求める動議」を提出した。

議長は、右動議を取り上げ、「私は必要はないと思うが皆様いかがでしょうか。」と発言しながら議場に採決を諮った。その際、議長は、まず右動議に賛成の株主に、次いで反対の株主にそれぞれ挙手を求め、出席株主の総議決権の七四パーセントを占める大株主四名を含めた大多数の株主が反対の意思を示して挙手していたことを確認し、右動議が反対多数で否決されたことを宣した。

引き続き、原告平井は口頭質問④を質問し、被告は前示三2(四)のとおり対応した。同原告は、議長に促され、さらに次の質問に移ろうとしたが、このときマイクの電源が切られていた。

マイクの電源が再び入ったことを確認したうえで、原告平井は口頭質問⑤を質問し、被告は前示三2(四)のとおり対応した。

担当取締役が説明を終えたところで、原告平井が、更に次の質問をしようとしたが、マイクの電源は切られていた。他方、他の株主から動議の提出を求める声が上がった。議長は、原告平井の発言を「ちょっと待って下さい。今、動議が出ているようですから。」と制し、指名を受けた近藤株主が、先程から質問が繰り返されて時間も相当経過しており、十分説明がなされたと思うので、議案の審議に移るようにと「質疑打切りの動議」を提出した。議長は、右動議の取扱いにつき事務局席の者と相談した後、これを議場に諮った。これを受けて原告平井、同岸ら原告らグループのうち数名が、自分の席を離れ、装飾用花台を乗り越えるなどして議長席のある舞台直前に詰め寄り、被告場内整理員が同原告らと舞台との間に割って入った。原告らグループの者は、なおも不規則発言を行い、他方、議長は、静粛にするよう、また、自分の席に戻るよう、再三にわたって求めた。議長は、右動議につき挙手を求めて採決を諮り、本件総会出席株主の総議決権の七四パーセントを占める大株主四名を含めた大多数の株主が賛成の意思を示して挙手していたことを確認し、午前一一時二七分、右動議が賛成多数で可決されたことを宣した。原告平井は、舞台直前で「質疑の続行を求める動議」の提出を求めて発言したが、受理されるところとはならなかった。(<証拠>)

(四)  第一号議案審議の状況

午前一一時二七分、議長は、会場内の不規則発言に対し、静粛にするよう注意したうえで、第一号議案の件を上程し、利益処分案の内容については総会招集通知添付書類に記載のとおりであることを説明し、更に重ねて、①配当金は当期の業績を勘案して、当期中間配当額と同額の一株当たり金二五円としたいこと、②海外投資等損失準備金、価格変動準備金、原子力発電工事償却準備金及び公害防止準備金の各取崩しは、いずれも租税特別措置法の規定による額を取り崩したものであること、③海外投資等損失準備金及び原子力発電工事償却準備金の積立ては、内部留保のため、租税特別措置法の規定による額を任意に積み立てるものであること、④原価変動調整積立金は、今後の原価の高騰に備え、経営基盤の強化と電気料金の安定に資するために任意積立金として積み立てたいことを説明して、「本議案につきまして、ご異議はございませんか。」と議場に審議を求め、採決を諮った。第一号議案については、本件総会前日までに議決権行使書を提出して原案に賛成の意思を表明していた株主の議決権数が既に総議決権の過半数に達していたが、議長は、本件総会に出席している大株主四名のほか多数の株主が拍手や「異議なし。」などの発言によって賛成の意思を表明していることを確認したうえで、第一号議案が議決権行使書によるものを含めて賛成多数で原案どおり可決されたことを宣した。

この間、原告らグループの者が会場内で「質問。」と声を上げたり不規則発言をしていたり、原告らグループのうち一〇数名の者が株主席前方に行くなどしていたほか、原告平井が、舞台直前において「議長、修正案を提出します。」などとして「第一号議案の修正を求める動議」を提出しようとして発言したが、受理されるところとはならなかった。議長席のすぐ後ろの事務局席の者にも、株主席からの質問や動議を求める声は聞こえなかった。(<証拠>)

(五)  第二号議案審議の状況

引き続き、議長は、第二号議案の件を上程し、退任監査役の略歴は総会招集通知添付書類に記載のとおりであること及びその功績の大なることを述べ、その功労に報いるため被告における一定の基準に従い妥当な範囲内で慰労金を贈呈することとし、贈呈の金額・時期・方法等については、監査役の協議に一任されたい旨述べたうえで、「本議案つきまして、ご異議はございませんか。」と議場に審議を求め、採決を諮った。第二号議案についても、第一号議案と同様、議決権行使書による賛成が既に総議決権の過半数に達していたが、議長は、本件総会出席の大株主四名のほか多数の株主が拍手や「異議なし。」などの発言によって賛成の意思を表明していることを確認したうえで、第二号議案が議決権行使書によるものを含めて賛成多数で原案どおり可決されたことを宣した。

この間、会場内には原告らグループの不規則発言があったほか、原告平井が、舞台直前において「議長、審議を求めます。」などとして「第二号議案の実質的審議を求める動議」の提出を求めて発言したが、受理されるところとはならなかった。(<証拠>)

しかしながら、第二号議案の審議中に株主が質問を求めていたことを認めるに足りる証拠はない。

(六)  閉会宣言

午前一一時三一分、議長は、報告事項の報告と議案の審議を終了したとして、本件総会の閉会を宣言した。原告らグループ以外の他の株主は、本件総会の開始から終了に至るまで、おおむね着席して平静に議事に参加していた。(<証拠>)

(七)  本件総会後の事情

原告らを含む約三〇名の者は、本件総会の決議方法に抗議し、質問事項に対する具体的説明を求めようとして、電気ビル本館内にある被告本店に赴こうとしたところ、株式会社電気ビルの要請を受けたガードマンや警察官によって、右ビルに入ることを阻止された。(<証拠>)

3  右当事者間に争いのない事実及び認定事実に基づいて、本件決議につき議事運営の不公正あるいは決議方法の瑕疵が存したか検討する。

(一)  質問権の制限について

(1) 事前質問状記載の質問事項に対する一括答弁についてまず、原告らは、原告ら提出にかかる事前質問状記載の質問事項につき、議長が、総会会場における原告らの趣旨説明を待つことなく、直ちに各担当取締役から一括して説明させたことは、質問権の不当な制限であると主張する。

株主総会の円滑な運営の観点から、予め質問状の提出のあったものにつき、改めて総会会場における質問を待つことなく説明することは、総会の運営方法の問題として会社に委ねられているところである。また、説明の方法について商法は特に規定を設けていないのであって、商法二三七条ノ三第一項の趣旨に照らし、株主が会議の目的事項につき合理的に判断するのに客観的に必要な範囲で説明すれば足りるのであって、説明すべき質問事項を取捨選択し一括してする説明が直ちに違法となるものではない。そして、右一括答弁による説明の内容が不十分であったり漏れがあった場合には、それを補充する説明を求める質問の機会が与えられ、その質問に対してされた説明と併せて、客観的に合理的な詳しさに達すれば足りるものと解される。

本件総会についてこれをみるに、事前質問状記載の質問事項に対する一括答弁は、それ自体各事項毎に分けられていて客観的に合理的なものであったし、議長が、追加質問等については一括答弁後に受ける旨述べて発言の機会を与えることを明確にしたうえで、口頭質問を受け、これに答えるなどして現にその機会を与えたのであるから、質問権の不当な制限があったとはいえず、この点についての原告らの主張は理由がない。

(2) 口頭質問に対する質疑打切りについて

次に、原告らは、なおも質問があるとして発言を求めている株主がいるにもかかわらず議長が「質疑打切りの動議」を会場に諮ったうえで報告事項に関する質疑を打ち切ったことは、質問権の不当な制限であると主張する。

株主総会において、目的事項につき取締役等に対して多数の株主が説明を求めていれば、ある程度時間を要することがあっても、取締役等はこれに対する説明義務を尽くすべきである。しかしながら、株主総会も一つの会議体であって、議長は、商法二三七条ノ四第二項に定める議事整理権に基づき、他の株主に質問の機会を与えることができるよう、また、合理的な時間内に会議を終結できるよう、各株主の質問時間や質問数を制限することができると解されるし、相当な時間をかけて既に報告事項の合理的な理解のために必要な質疑応答がされたと判断したときは、次の目的事項に移行すべく質疑を打ち切ることができるものと解される。

本件総会についてこれをみるに、前示の事実によれば、議長が質疑を打ち切るまでに、報告事項については、事前質問状記載の質問事項に対する一括答弁及び原告平井の口頭質問④に関する質疑応答を通じ、客観的に合理的な理解に必要と認められる説明がされていたこと、口頭質問の機会にされた株主発言には阿尾株主の発言や口頭質問①ないし③など報告事項の理解に必要ではないものが多くあったこと、口頭質問のための時間だけでも相当な時間が経過し、その多くは原告らとの質疑応答にあてられていたことが認められ、「質疑打切りの動議」が賛成多数で可決され、会議体としても客観的に質疑が十分にされたと考えることの許される状況下において、議長が、報告事項の合理的な理解のために必要な質疑応答がされたと判断し、質疑を打ち切って決議事項の審議に移行したことは、株主の質問権を不当に制限したものとはいえず、この点についての原告らの主張は理由がない。

(3) 第一号、第二号議案審議中の質問について

さらに、原告らは、第一号、第二号議案の決議に際して、被告が事前に質問に答えなかったことは、質問権の不当な制限であると主張する。

株主総会も会議体の一つであり、その公正かつ円滑な運営の観点から、株主が目的事項につき質問するに当たっては、議事整理権を有する議長が明認することのできる方法により、適式に、質問を求めなければならないものと解するのが相当である。

本件総会についてこれをみるに、たしかに、原告ら提出にかかる録音テープの検証の結果によれば、右録音テープには第一号議案の審議、採決時に原告らグループの「質問。」との音声が録音されている。

しかしながら、被告提出にかかるビデオテープの検証の結果によれば、右ビデオテープには、本件総会冒頭における原告平井の動議を求める音声、一括答弁中の不規則発言の音声、近藤株主の動議を求める音声等が録音されてはいるが、第一号議案審議中の質問を求める音声は録音されてはいない。また、原告らの座っていた場所から議長席までは相当程度の距離があったこと、議長席のすぐ後ろに座っていた者にも「質問。」との声は聞こえなかったことから、質問を求める株主の声が議長には届かなかったものと推認される。さらに、議長が本件総会の冒頭から総会の秩序の維持や議事の整理に努めていたにもかかわらず、原告らは本件総会の開始時からほとんど間断無く不規則発言を繰り返していたことから、その発言が真に質問を求めているのか議長の明認し得るところではなかったとしてもやむを得なかったものであり、その他議長の明認し得る方法による質問の提示もなかったものというべきである。すなわち、議長は、その明認し得る方法による質問の提示がなかったため、これに発言の機会を与えることができなかったにすぎず、報告事項に関する口頭質問を受けながら決議事項審議の段階であえて質問を無視すべき利益が被告に乏しい状況の下では、質問を求める株主を故意に無視したものであるということはできない。

なお、第二号議案の審議中に質問を求める株主はいなかった。

したがって、第一号、第二号議案の審議につき質問権の不当な制限があったとはいえず、この点についての原告らの主張は理由がない。

(二)  動議取扱いの不公正、不公平さについて

(1) 原告らは、被告の原告らが提出しようとした各動議に対する取扱いが不公正、不公平なものであったと主張する。

株主総会における議長は、総会の目的事項につき公正かつ円滑な審議が行われるように議事運営に関する一般的な権限と職責とを有しており、右議事整理権に基づき株主総会のいかなる段階で株主の発言を許し、また、発言を禁止するかを決定する権限を有している。そして、議長は、法令、定款及び会議体の本則に従い、自らの裁量により、右決定をすることができ、その裁量が議長としての善良なる管理者の注意義務の範囲内にとどまる限りは、議事運営が不公正なものとなることはないと解すべきである。

他方、株主総会の公正かつ円滑な運営の観点から、株主が動議を提出するに当たっては、議長が明認することのできる方法により、適式に、その提出を求めなければならないものと解される。

以下、各動議について検討する。

(2) 「入場チェックに関する説明を求める動議」

本件総会において、原告岸が、冒頭手続中及び被告代表取締役による報告事項の報告中に、「入場チェックに関する説明を求める動議」の提出を求めるべく発言していたにもかかわらず、受理されるところとはならなかった。原告らは、被告が右動議提出の発言を無視したものであるとして、議事運営に不公正があったと主張する。

株主は、議長の明認し得る方法により、適式に動議の提出を求めるべきところ、原告ら提出にかかる録音テープの検証の結果及び被告提出にかかるビデオテープの検証の結果によるも、原告岸の右動議を求める旨の音声は録音されておらず、他方、議長はマイクを使用しての発言中であったことから、同原告の右動議を求める声を議長が聞き取ることができなかったものと推認され、右動議提出の求めが議長の認識するところとならなかったから受理されなかったというべきである。また、議長は、株主の発言は報告事項の報告終了後にするよう求めて議事を進行していたところ、冒頭手続中や代表取締役による報告事項の報告中に、これを中断してまで株主の発言を優先すべき理由はないのであって、右報告の間における株主の発言を禁止する旨の議事運営は、議長の善管注意義務に照らして、不当なものとはいえない。原告岸は、被告の一括答弁後指名されて発言の機会を得たのであり、この段階で右動議を提出しようと思えば提出し得たはずであったにもかかわらず、右動議を提出しなかったのである。なお、右動議は、その性質からして株主総会の多数決による決議になじむものではなく、内容において不適式なものである。

したがって、被告が冒頭手続及び報告事項の報告の段階において右動議を取り上げなかったことをもって、議事運営に不公正があったということはできない。

(3) 「監査特例法による会計監査人の総会出席を求める動議」

本件総会において、原告平井が、その冒頭や報告事項の報告中、また、一括答弁中に、右動議の提出を求めて発言していたが、これらの段階では受理されるところとならなかった。結局、右動議は、一括答弁後口頭質問の段階で受理されたが、議長が「私は必要はないと思うが皆様いかがでしょうか。」として議場に採決を諮り、反対多数で否決された。原告らは、議長が、右動議を冒頭において受理しなかったこと、貸借対照表における構築物等の固定資産の原価償却の方法や株式発行費等の償却方法が変更されたことについての説明を求めたいとの動議提案の趣旨説明をさせなかったこと、「私は必要はないと思う。」などと発言しながら採決を諮ったこと、賛否数の確認の方法を取らなかったことにおいて、議事運営に不公正があったと主張する。

監査特例法による会計監査人の総会出席を求める動議は、大会社の定時株主総会において計算書類の会計に関する事項について会計監査人の意見を聴取するためにその出席を求めるものである。

本件総会においては、既に総会招集通知添付書類記載の監査報告書において各計算書類について会計監査人の意見が示されているところ、右動議はさらに重ねて会計監査人の意見を聴取したいとするものであるから、被告監査役の監査報告後、会計監査人の意見を聴取する段階で同人の出席を求めれば足りるのであって、必ずしも総会の冒頭から出席させなければならないものではなく、したがって、本件総会の冒頭において右動議の提出を受理しなかったことをもって、議事運営に善管注意義務に反するような不公正があったとはいえない。

次に、右動議は株主総会の議事進行に関する動議(いわゆる手続動議)であり、動議内容が議長の善良なる管理者の注意程度で明白だと判断したときは、直ちにこれを議場に諮ることも許されるところ、右動議それ自体から、また、右動議提出の際、原告平井が「営業報告中の監査報告書について会計監査人に質問したい。」と発言していることから、計算書類の会計に関する部分についての会計監査人の意見を聴取したいとの提案趣旨は明らかであって、動議提出者に提案の趣旨説明をさせることなく採決を諮ったことをもって、議事運営に不公正があったとはいえない。

同じく、いわゆる手続動議であるから、議事整理権を有する議長が「必要はないと思う。」としてその意見を示したとしても、議事運営に不公正をもたらすことにはならない。

そして、右動議の採決にあたり、議長は賛成、反対の順で挙手を求め、反対多数であることを確認したうえで、反対多数で否決されたことを宣したのであるから、賛否数の確認の方法が取られていないから議事運営に不公正があるとの原告らの主張は理由がない。

(4) 「質疑の続行を求める動議」、「第一号議案の修正を求める動議」及び「第二号議案の実質的審議を求める動議」

本件総会において、近藤株主による「質疑打切りの動議」提出直後から原告平井が株主席前方に行き、右動議可決後に「質疑の続行を求める動議」の提出を、また、第一号議案上程後に「第一号議案の修正を求める動議」の提出を、さらに、第二号議案上程後に「第二号議案の実質的動議を求める動議」の提出それぞれ求めたが、いずれも受理されなかった。原告らは、被告がこれらを無視したものであるとして、議事運営に不公正があったと主張する。

株主は、議長が明認することのできる方法により、適式に、動議の提出を求めなければならないところ、議長席のすぐ後ろの事務局席の者にも原告平井の右動議を求める声は聞こえなかったことが認められ、また、原告ら提出にかかる録音テープの検証の結果及び被告提出にかかるビデオテープの検証の結果のいずれによるも、「質疑打切りの動議」可決後から閉会に至るまで、動議を求める音声は録音されていない。第一号、第二号議案とも本件総会前日までに議決権行使書により総議決権の過半数が既に原案に賛成の意思を表明していた状況においては、被告が、「第一号議案の修正を求める動議」及び「第二号議案の実質的審議を求める動議」の提出をあえて無視する態度に出るべき利益は乏しいものであったといえる。してみると、原告平井の動議を求める声を議長が聞き取ることができなかったと推認され、右三つの動議が受理されるところとならなかったのは、動議の提出を求めていることが議長の認識するところとはならなかったからにすぎないというほかはない。

なお、仮に、原告平井が議長席のある舞台直前で動議を求めて発言していたことでもあり、同原告と舞台との間に割って入った被告側の者が同原告の右発言を確知し得たはずであって、議長を含む被告側の者において右動議提出の求めを認識する可能性があったとしても、株主の動議提出権は株主総会参与権の一つとして認められるものであるところ、本件総会においては、原告らグループを除く大多数の出席株主が、開会から閉会に至るまでおおむね終始着席して平静に議事に参加していたのに対し、原告平井においては、冒頭から不規則発言を繰り返し、再三にわたって、離着席を繰り返し株主席前方に押しかけるなどし、「質疑打切りの動議」提出後には舞台前の装飾用花台を乗り越えるなどの行為に及んでいたものであって、他方、議長は、たびたび、静粛にするよう、元の席に戻るよう注意するなど議事整理権ないし秩序維持権を行使して、議事の進行、会場の秩序維持のための措置を講じていたことからすれば、右原告平井の言動は、公正かつ円滑に運営されるべき株主総会の会議体としての本則を自ら放擲するものであって、その限りにおいて自己の株主としての利益を放棄しているものと評価されてもやむを得ないところがあり、したがって、右三つの動議提出の求めが適式な動議の提出として受理されなかったとしてもやむを得ないものといわざるを得ない。

したがって、右三つの動議が受理されなかったことをもって、被告の議事運営が不公正なものであったということはできない。

(5) 「質疑打切りの動議」

本件総会において、口頭質問⑤に対する被告取締役の説明が終了したとき、議長は、原告平井がなおも発言しようとしていたのを制して、近藤株主に「質疑打切りの動議」の提出を受理し、これを議場に諮って、可決されたことを宣した。原告らは、被告が示し合わせたように原告平井の発言中のマイク電源を切って優先的に近藤株主に右動議を提出させて即座に可決させたものであり、原告らが提出を求めた動議の取扱いとの間に不公平があると主張する。

本件総会においては、発言を求め議長に指名された株主に対して株主発言用マイクが手渡され、この時点でマイクの電源が入り、右株主の発言が終わって議長や担当取締役等の答弁に移ると、右マイクの電源が切れる仕組みとなっていた。口頭質問④が終わったときに原告平井孝治の所持していたマイクの電源が切れていたのと同じく、口頭質問⑤の発問が終わり担当取締役の答弁に移ったときにマイクの電源が切れていたものであったことからすれば、右株主発言用マイク操作の仕組みどおりの操作がされていたにすぎず、原告平井の発言途中に近藤株主の動議の提出を優先して許すために株主発言用マイクを操作したものとはいえない。

また、近藤株主の動議提出を求める発言があった後、議長は事務局席の者と右動議の取扱いをどうするか相談したうえで、議場に諮り、不規則発言をしたり株主席前方に押しかけている者に対して再三の注意をした後、挙手を求めて採決に諮ったものであったことからすれば、示し合わせてこれを取り上げたものとも、即座に可決させたものともいえない。

したがって、不公平な動議の取扱いであったとの右原告らの主張は理由がない。

(三)  決議方法の瑕疵について

原告らは、被告が、到底議事進行が不可能なほどの喧噪状態の中で議事を進行し、原告らの質問や動議を無視するなどして審議もせず、不明瞭な採決方法による第一号、第二号議案を採択したことにおいて、本件決議は決議方法において違法または著しい不公正なものであると主張する。

たしかに、原告らグループの者が着席していた付近及び原告平井ら数名の者がいた舞台前など会場の一部は騒がしかったが、他の大部分の株主は、議案の審議中も、おおむね終始着席し、平静に議事に参加していたのであり、議長が、会場内のスピーカーを通して「ご異議はございませんか。」と議場に諮ったところ、着席していた大部分の株主が拍手や「異議なし。」との発言でこれに応えたことからすれば、議事の進行具合が会場内に周知されていたものと推認され、議場が議事進行不可能な状態に陥っていたとはいえない。

次に、被告が取った原告らの質問や動議に対する対応については、先に四3(一)(3)と同(二)(4)で検討したとおり、違法又は著しく不公正なものではない。

さらに、株主総会においては、議案に対する賛成の議決権数が決議に必要な数に達したことが明白になったときに表決が成立するのであって、出席株主の明認し得る方法により表決がされれば、必ずしも挙手、起立、投票などの採決方法を取ることまでを要しないと解するのが相当であるところ、既に本件総会前日までに議決権行使書によって第一号、第二号議案双方の原案に対して総議決権の過半数が賛成の意思を表明していたうえ、議長の「ご異議はございませんか。」との発問に対し、大株主四名のほか多数の本件総会出席の株主が拍手や「異議なし。」などの発言によって賛成の意思を表明したことが確認されており、両議案の原案への賛成が過半数を超えていたことは明白であったし、かかる場合に、なお挙手、起立、投票等の採決方法を取り賛否数を厳密に計算して議場に示すことまで必要としないと解される。そして、議長は、議決権行使書によるものも含めて賛成多数で両議案が原案どおり可決されたということを明確に議場に宣しており、その結果において不明瞭であったということはできない。

したがって、原告らの本件決議の決議方法に違法ないし著しい不公正があったという主張は理由がない。

(四)  本件総会終了後の事情について

原告らは、本件総会終了後、被告に決議の強行に抗議するとともに、質問事項についての具体的説明を求めて被告本店に赴こうとしたが、被告がこれ排除した点において、本件決議に著しい不公正がある旨主張する。

しかしながら、右の者らを排除したのは、株式会社電気ビルであって、被告ではないのであるから、原告らの右主張は理由がない。

4  以上のとおりであって、被告の議事運営に不公正があった、又は、決議方法に瑕疵があった旨の原告らの主張は理由がない。

五慰謝料請求(請求原因4)について

原告らは、本件総会における被告の対応により原告らが被った精神的、肉体的苦痛に対する慰謝料は、原告一人つき金一〇万円が相当である旨主張する。

原告らの慰謝料請求に関する請求原因の具体的内容については、釈明によるも、被告が株主の会の会員総体を敵視して、入場制限に始まり、質問への説明や議案審議、動議の取扱いに至るまで、本件総会の全体にわたって不当、不法な対応に終始したことが、原告らの株主としての権利行使を制限し抑圧することになった、あるいは、原告らの一人に対してされた所為も、株主の会の会員である他の原告らへの圧力となり、結局、全ての原告が同様に心理的・精神的圧迫を受けたなどと主張するのみで、必ずしも一義的に明確なものとはいえないが、先に検討したように、被告の本件総会の運営には、その前後の手続を含めて、不当、不法なところはないのであるから、原告らの右主張は理由がない。

六以上の次第であって、原告藤戸高光、同田中嘉彰、同中ノ上智之、同続博治、同松本泰、同浦上悦吉、同藤木雄二及び同田中清次郎ら八名の本件決議の取消しを求める訴えは不適法であるからこれを却下し、右八名のその余の請求は、理由がないからこれを棄却し、右原告ら八名を除くその余の原告ら一四名の本訴請求は、いずれも理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九三条一項本文を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官寒竹剛 裁判官加藤亮 裁判官鳥羽耕一は、転補につき、署名捺印することができない。裁判長裁判官寒竹剛)

別紙質問項目表<省略>

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